私の半生 ⑰ 子どもたちと話がしたい
2009(平成21)年7月、家具作りにカラマツ材を使用し、長野県産材の普及に貢献したとして第16回信毎賞を頂いた。これまでの努力を認めていただいてとてもうれしかった。
しかし、ここに来て後継者がいなくなったのだ。城北木材加工を創業して平成24年2月には65年がたったが、これを節目として閉業することにした。これまでの道のりは決して楽なものではなかった。それだけに閉じることは非常にさびしい。
今まで助けてもらった従業員には、できるだけのことはしたいと思っている。立派な職人に育った者もいるし、それぞれ独立の道を歩いてもらうつもりである。閉業後の注文は、彼らに任せたいと思う。
閉業と決めた後、途端に忙しくなった。ショールームの整理、命の次だった道具の整理、どれをとっても思い出深いものばかりだ。
幸い長女が明科に嫁いでいて、何かと私の世話をしてくれたり、閉業の準備の手伝いをしてくれて助かっている。閉業後、敷地や自宅は売却し、これからは老人施設へ入居の予定である。
娘夫婦も同居を勧めてくれたが、できる限り、自分のことは自分で生活をしていくつもりである。
私は長い間、学校の子どもたちと接してきたこともあり、機会があれば今後も話がしたい。
この2月、森林保護団体が企画して私の「話を聞く会」を店のショールームで開いてくれた。定員15人のところ、大勢の皆さんが来てくださった。私は今でも大勢の人たちと接することが好きである。
老人施設を見学してきたが、元気な方たちもいて、その人たちと交流できることを楽しみにしている。
会社の机で仕事をしていると、学校帰りの児童たちがよく声を掛けてくれたが、それがなくなるのはちょっとさびしい。
これからも学校や会社、団体などから山の話、木の話など昔の話をしてほしいとお呼びがかかれば、いつでも飛んで行こうと思う。
振り返ってみると、90歳なんてあっという間に来てしまった。人生などこういうものかもしれない。苦しくて辛いことがたくさんあったが、私は本当に幸せであった。
今まで出会った多くの人たちに感謝したい。 おわり
(聞き書き・佐藤文子=俳人)